2014年07月06日

梅雨空見上げ頬をつたうは…

 土器川沿いの小路に出たあたりから、何となく予感はあったのかもしれない。
 今朝は少し起きるのが遅かったから、愛犬・ジャイロはさぞ腹も空かし、トイレも我慢の限界だろうと慌てて散歩に出たわけだが、事務所を出て数十メートルも歩くと、ジャイロは小路の脇の草むらに隠れて野糞をした。俺はそれをなぜかうらやましいと思いながら眺めていたんだ。どうやらこの時、すでに俺は自分の便意に気づきはじめていたんだろう。
 ジャイロとの散歩は一時間ほどの道のりだ。折り返し地点はボート場裏の漁港で、ジャイロが港内を泳ぐのに満足した様子をみて、事務所に引き返すことにしている。今朝はこの時点で、俺の便意は十分なレベルに達していた。正直、漁港の周辺に死角があれば、久しぶりに野糞をかましてやろうかと思ったほどだ。

 ウォーキングも、ハードにやれば膝が笑うという。今朝の俺の場合、肛門が笑っていた。はっきりと痙攣しているのがわかった。口尻のあたりが、肛門につられるように引きつる感覚もあった。俺は必死に歩いた。

 結果から先に言っておこう。
 俺は久しぶりにウンコをもらした。
 パンツの中にやらかしてしまい、泣きそうになりながら立ち尽くしているうち、やがて、パンツに収まり切らなかったウンコが床に落ちた。涙をこらえながら、できるだけ両足を開いて被害の拡大を抑えた。

 まさに「あと一歩」だったんだ。
 俺は本当にがんばった。事務所に帰ればトイレに座れる。歩くんだ。とにかく歩くんだ。だが、歩く速度よりも肛門への配慮を優先しなければならない。一瞬の油断がそれまでの努力を無駄にする。必死にジャイロに話しかけた。犬に向かって人間の言葉を話しかけたところで、無論、会話が成立するわけではない。だがそうすることで、意識を現実から逃避させ、つまり、猛烈な便意への意識をできるだけそらすようにして、早足で事務所へと歩き続けた。肛門と口角の痙攣はあわわわわって感じでひどい状態になっていた。俺は陣痛ってやつを間近で観察したことがあるが、今朝の俺にも同じことが起こった。漁港のあたりで2ビートだった便意は、4ビート、8ビートとテンポを早め、事務所に着く頃には32ビートを超え、ピークが断続的に襲ってくるような状態のさらにその先、つまり、臨界点を超えていた。
 それでも俺はやれると思った。乗り切れると思った。便意との戦いに、俺の精神も俺の肛門も、つまりチームようごは、あるいはようごジャパンは、きっと勝てると信じた。いや、祈るように肛門を引き締めたのだった。

 事務所に入ってさあ、ここから油断せずにしっかりトイレまで持ち込もうと気を引き締め直した瞬間だった。確かに俺は気持ちを引き締めた。あと一歩って場面が一番ヤバいことを俺は十分に知っている。ここで気持ちを引き締めなければならない。それは肛門の引き締めを意味するはずだった。しかし、実際にはその瞬間に悲劇が訪れた。悪夢が幕をあけた−。
 いや、俺の肛門を責めないでもらいたい。俺も奴が裏切ったとか甘えたとか油断したとは断じて思っていない。緩んでもいなかったと信じている。実際に緩んでいなかったと思えるのは、漏れ出たやつが固体ではなかったことからも確認できるからだ。固体ではなかったが、いつものシャーッていう液体でもなく、いわばその中間のペーストというべき硬度だった。そいつは一番たちが悪いと思われるかもしれないが、いや、決してそんなことはない。固体がもっとも処理しやすいであろうことは間違いないが、水っぽかったらもっと飛び散っていただろうし、そもそもウンコをもらすこと自体、これ以上ないってほどの悪夢じゃないか。

 俺も一応、「尻におぼえあり」と言われた男だ。
 もらした場合の処理は心得ている。あらゆるシチュエーションにおける、事後処理の実務経験がある。
 今朝の場合、証拠を抹殺しようとして外でパンツごと燃やした。ダンボールなどを大量に使い、激しい火力をもって完全に消し去ろうとした。順調にその作業は進んでいたのだが、さっき、急に雨が降り始めた。
 くそ…
 Shit…
 日本語でも英語でも、こういう状況で吐き捨てることばが同じ意味であるというのは、きっと人類は太古の時代から、もらしたウンコを燃やしている時に雨に邪魔されてきたのではないだろうか?

 灰色の空を見上げると、雨粒が頬をつたい、まるで俺が泣いているように見えたかもしれない。
 実際、俺は心で泣いていたかもしれないし、でも本当は、半笑いだったのかもしれない。
 いずれにせよ、雨が上がれば残りのウンコを処理しなきゃならない。これだけは誰にも頼めない。なんて週末だ。さっきからまた便意が近づいている。今度は余裕をもって優雅に、事を済ますことができるだろう。そうか、だったらそう悪くない週末じゃないか。
posted by 榊原ようご at 12:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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